京大オケのいまむかし

 2016年には創立100周年を迎える京大オケ。長い歴史の中で様々な人が関わってきましたが、過去に在団されていた方はどのような思いで京大オケの音楽に向き合っていたのでしょうか。
 そこで今回の特集記事では、京大オケ出身で現在プロのフルート奏者として活躍されている寺本義明さんをお招きして、京大オケの現フルート首席奏者の倉坂麻央さんと共に京大オケの音楽や魅力について語って頂きました。

○寺本義明さんプロフィール
 京都府出身。京都大学文学部卒業。名古屋フィルハーモニー交響楽団を経て、2000年より東京都交響楽団首席フルート奏者。愛知県芸術大学、名古屋芸術大学、東京芸大各講師。

京大オケの強み

―――おふたりは大学入学と同時に京大オケに入団され、その後何年かオケで過ごされてきましたが、京大オケの強みとはなんだと思われますか。

寺本:京大オケに入ってから二回生の前半ぐらいまではあんまりこのオケにのめり込めなくて、そんなに熱心な団員じゃありませんでした。でも定期演奏会に出演させてもらううちに、だんだんオケにのめり込んで、積極的になっていったという感じですね。中学から大学までずっとアマチュアオケでやってきて、特に最後の3、4年は首席奏者や学生指揮者をやるなどしてとても濃かったので、その経験っていうのは自分にとって原点になっているかなと思います。
 これは同じ時期にオケにいた人たちに聞けば一人一人違うことを言うかもしれませんが、一個一個知恵を絞って、自分たちでその時いいと思ったことに対して一生懸命頑張るという感じで過ごしていた気がします。とにかくがむしゃらだったと思います。

倉坂:みんなが一生懸命、必死にがむしゃらに頑張るっていうのは多分今も変わってないような気がします。ひたすら時間をかけて取り組むというか。京大オケには、これまでの先輩方が築いて下さったお客様の評価や指揮者の先生の印象があって、そのおかげでお客様や指揮者の先生が京大オケに少し特別な思いを持って下さっているんだ、と思います。
 コンサートホールでお客様がたくさん入った中で、その曲を演奏させていただける立場を与えられているのだから、自分ができることを模索してやっていくしかないのかなと、私が見てきたこれまでを思い返してみるとそう感じます。

寺本:時間をかけるっていうのもそうなんだけど、それに加えて京大オケの根幹を支えているのは、できるだけプロに頼らない、外部の人に頼らない、というところじゃないかな。僕らの頃は、客演指揮者がtuttiを振りに来るだけで、個人レッスンに行く以外は完全に学生でやっていました。
 今の自分は、そんな時間の掛け方はしないけど、京大オケがそうやってやるのはすごく大事なことだと思います。自分がプロになっていうのは変だけど、できるだけプロの手は借りない方がいいと思います。プロを入れることのメリットは非常に大きいんだけど、それをある程度封印してこのオケはやってきたし、それが色んな伝統にも繋がってきていると思います。これは遠回りっていうか、効率が悪いっていうか、学生がやるとリーダーが音楽的に的外れなことを言うかも知れない、プロがみたら『何言ってるんだ』っていうこともあるかもしれないですよね。でも僕はそれでいいと思っています。

―――「時間をかける・プロの手を出来るだけ借りない」という京大オケの手法を、プロのフルート奏者となった今、どのように評価されていますか。

寺本:学生オケを指導したり、指揮したりすることもあるんだけど、そこで学生たちに期待したいのは「自分たちの力でやる」っていうことです。つまり、リーダーも学生がやる。学生がやるっていうことは、いっぱい間違うかもしれない。だから自分がプロになって思うのは、よく京大オケはそういう非能率的な部分を含むやり方でこのクオリティを保ってきたなということ。もしかしたら京大だから出来たのかもしれない。
 ただ、このやり方の一番の難しさは、リーダーに左右されるということ。誰かが必ずリーダーをやらなければならないから、みんなで力を合わせて乗り切らないといけないような時もあるかもしれない。そのかわり、難しい状況で学生がまとまった時には、専門家が要領よく整えてくれたものとは全然違うものができるのではないかなと思う。だから難しいけど可能性のあるやり方だと思うし、続けられるのもなら続けてほしいと思います。

倉坂:これはあくまで個人の意見なんですけど、いい演奏をするためには手段を選ぶべきではないかなーと思うときもあって。最終的にいい演奏をするためには、自分たちでは気づかない所をプロの視点から気付かせてもらうことが必要になる気がします。そこを考えると、学生だけでやるってこと自体にこだわることはないのかなって思うこともあります。

寺本:僕、倉坂さんの言っていることはよく分かります。だけど、じゃあいい演奏って何かってことを考えたときにね、それは、結構いろんな側面があると思うんです。あたかも『この演奏会ではこのレベルを目指さなきゃいけない』っていう線があって、それを超えないといけない、みたいなイメージを持ちやすいけど、もともとそんな線なんてものはないわけだよね。
 あとは、例えば京大オケの伝統だとかいうようなことを言ったとしても、そういうものもあるようなないような、よくわからないことだよね。だから、今の学生は、決して10年前の先輩のために演奏しているわけではないわけだし、10年後の京大オケのためにやる必要もないと思うんです。だから、今までこうだったから変えちゃいけない、百何十回続いてきたものを続けなきゃいけないみたいに思う必要は全然ないと思うなあ。たまたま、今集まった人たちが、今の京大オケを作っているだけだから。

音楽の魅力

―――寺本さんは現在、プロのフルート奏者だけでなく指導者としてもご活躍されていますが、今の活動と京大オケで過ごされていた時間はどのように繋がっていますか。

寺本:自分が京大オケにいた頃と今とでは、一生懸命なのは変わらないけど、音楽に対する向き合い方には、変わってきている部分もあります。だから、今40代の自分が音楽大学の子たちに教えることと、20歳前後の自分が京大オケでやっていたこととでは、重ならない事も大きい。
 「でも」ってことで言わせてもらうと、音楽の専門教育を受けている子たちに対して、自分が取り組んでいる作品や音楽に対して、理解と言うより好きだってこと――その曲に対してすごく思い入れを持つとか、味わうとか、惚れ込むとか――そういうことを、もっと演奏に反映してほしい、と言うことが多いんです。それはもしかしたら、もっと音楽をアマチュア的に好きにやろうよって思って、伝えているのかもしれないですね。専門家でも、ただ楽器が上手いだけでは足りないから。だから、そういう意味では京大オケの団員と音大生が無関係なわけじゃないのかなっていうふうに思う。ちょっと答えになってないかもしれないけど。

倉坂:なるほど。やっぱり今の話、とても大事だなって思っていて。演奏していると、どうしても技術がどうとか音程が合わないだとかそういうところに目が行ってしまって、そういうことを忘れそうになるので。音楽の素晴らしさを忘れないように努力するべきだと思います。

―――音楽の魅力を伝えるためにはどんなことが必要でしょうか。

寺本:やっぱり、この曲が好きだからやりたいだとか、この演奏家にすごく憧れるだとか、そういうところで音楽の世界に近付いていった人がほとんどだと思う。だから、それぞれの人たちの出発点っていうのはそこにあるはず。
 だけど、組織の中でやっていると、演奏会がトラブルなく終わることが目的になってしまって、トラブルなく終わってくれたら「やれやれ、終わった」みたいな感じになりやすいと思う。でも、本当はそういうところを目指して音楽を始めたわけじゃないでしょう。演奏が、滞りなく終わらせなきゃいけない仕事みたいになってしまったら、それはもうオケじゃないよね。

倉坂:時間をかけることで生まれた信念とか執念とかそういうものは、むしろ学生オケだからこそ伝わると思います。プロと一緒の演奏はできない中で、じゃあどういう演奏をお客さんに届けるかと考えたときに、その曲に対するアマチュアなりの解釈というか、想いであったりとか、そういう音楽に対する自分の在り方とか、オケとしての姿勢だったりとかを表現するしかないと思うんです。京大オケの音楽を聴きに来てくださっている方の中には、そういうものを楽しみにしている方もいらっしゃるのかなと感じています。

寺本:プロのオーケストラは本番がうまくいけばいいんだけれど、アマチュアの団体の場合はそうではないと思うんだよね。一つのシーズン全体が一つの演奏会で、最後の本番はもちろんクライマックスではあるけれども、その時間が無難に過ぎることだけが目標ではないと思います。何カ月かの間、いろんな人がいろんなことを経験したり考えたりしたものが、本番のステージに表れていると思うんです。京大オケをいつも聴きに来てくださる方というのは、やっぱりそういう凄みみたいなものがステージから伝わってきているように思って、足を運んでくださっているんじゃないかなあ。


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音楽の魅力について語り合う
寺本さん(左)と倉坂さん(右)

 僕が第190回定期演奏会を聴いた時に「変わってないな」って思ったのは、人臭さっていうか、わさわさしていて、おとなしくない感じ。そんなに主張せんでもよかろう、みたいな人がけっこういて、すごく好感を持ちました。昔の学生と今の学生とではもちろん表現の仕方は違う部分はあると思うけど、いい部分がちゃんとあって、すごく嬉しかったですね。

――最後に京大オケへメッセージをお願いします。

寺本:やっぱり一人一人が、取り組むことになった曲に対して、ただ「上手くいくかどうか」っていう風に思わないで、素晴らしい作品をやれているんだってことを感じながら、演奏会までの期間を過ごせたらいいな、と思いますね。「やっぱりこの曲はこのオケの録音がいいでしょ!」とか熱く語るのはもちろんだけど、すごい芸術作品をやっているんだから、当時の歴史や背景も知って、愛情や情熱を向けてほしい。京大オケみたいな、学生の自主的な努力で何とかする部分が大きい団体は、誰か大人が正解をポンポン教えてくれない分、自分たちでそれを一生懸命探してほしいし、特に演奏面でみんなを引っ張る立場の人が、誰よりもその曲が好きであってほしいなと思う。
 あと、京大オケの自主性というか自主運営は、危なっかしさも含めてすごく学生としてのすごく大事な部分だと思っているので、試行錯誤を恐れずというか、ガンガンやって、議論しながらやったらいいと思うし、決して優良企業的にならないでほしい(笑)。それから、繰り返しになるけど、自分たちの前の事とか、自分たちの後の事を、いろいろ考える必要はないよということ。今いる人が一生懸命にやればいいだけ。そして、次の人は次の人でまた違う風に考えて存続し続けてほしいですね。

 今回の対談を通じて日々の活動の中で忘れがちな音楽の魅力や、京大オケの長い歴史の中で培われてきた強みについて再発見することが出来ました。この対談で得られたことを忘れることなく、今後も音楽の素晴らしさを伝えるべく活動していきたいと思います。
 寺本さん、倉坂さん、ありがとうございました。

文:196期HP広報